「EB装置(電子線照射装置)の特徴と概要」

岩崎電気株式会社製造本部EB推進室
武井 太郎(Taro Takei)
ウェブマガジン「ポリマーダイジェスト」、20078月

はじめに
前回の記事ではEB装置(電子線照射装置)がどのような工業分野で利用されているかを紹介した。今回は、EB装置の仕組み、従来方法との比較を通してEB装置を使ったプロセスの特徴を紹介する。

1.EB装置の概要
1-1.EB装置の分類
 工業的に利用されているEB装置は、主として加速電圧で分類され、さまざまなタイプがある。加速電圧の高いEB装置は、「高加速電圧型」あるいは「高エネルギー型」と呼ばれている。それよりも加速電圧の低い装置を順次「中エネルギー型」、「低エネルギー型」という。高・中エネルギー型のEB装置は主として、プラスチックフィルム、電線被覆、ゴムシート(主としてタイヤ部材)の架橋、あるいは滅菌などの用途で広く用いられている。表1では中・高エネルギーの区分を1 MVとしているが、あくまでも便宜的な区分で、メーカーによっては、800 kVあたりを中・高の区分としている場合もある。
 低エネルギー型EB装置とは電子の加速電圧が300 kV以下のものを言う。プラスチックの表面改質、あるいはコーティングなどによる機能付加の分野で、従来のUV硬化、熱乾燥などの技術に替わるコーティング等の乾燥手段であり、あるいはEBの照射によってプラスチックフィルムそのものの改質が可能である。低エネルギー型の加速電圧範囲は、以前は最低で150 kVまでが実用的な範囲といわれていた。これは、加速電圧が下がると電子ビームの照射効率が落ちるためであった。最近では加速電圧100 kV以下でも十分に実用的な効率で照射できる装置が開発されている。

加速電圧範囲

高エネルギー型

1MV以上

中エネルギー型

300kV~1MV

低エネルギー型

300kV以下

表1 EB装置の加速電圧による区分

1-2.低エネルギー型EB装置の構成
 低エネルギー型EB装置は熱電子を直流高電圧で加速する方式が一般的である。図1にEB発生の原理を模式的に示した。電子は高真空度に保たれた真空チャンバー内で発生する。フィラメントで発生した熱電子はエキストラクタ・グリッドによって照射方向に導かれ、ターミナルグリッドを通過し、高電圧によって加速される。加速された電子(電子ビーム)は窓箔を通り抜け、大気中で製品(被照射物)に照射される。

図1 EB発生の原理

 EB装置には専用電源があり、電子源、電子流制御、電子の加速に使用されるそれぞれの電源が協調して動作するように設計されている。電子の加速に使用される電源が、いわゆる高電圧電源で、ここで加速電圧に相当する電圧を発生させている。
 照射窓部はEBを発生させる真空容器(真空チャンバー)とEBが製品に照射される照射ゾーン(大気圧側)との間を区切っている部分である。窓部は薄い金属箔(窓箔)などで構成されており、真空中で発生したEBは、窓箔を物理的に通過して、大気側に取り出され、そして製品に照射されることになる。
 EBが窓箔を通過する際に、また対象物に照射される際に、二次的にX線を発生する。低エネルギー型EB装置では、発生するX線を装置内で安全に遮蔽し、外部に漏洩させないような構造になっている。これは「自己シールド型」あるいは「セルフシールド型」などと呼ばれているものである。装置の設置、運転において、特定の免許、資格、許可あるいは放射線管理区域の設定が不要であるため、一般の生産設備の一部として、あるいは実験室内の装置の1つとして使用することができる。

2.EB照射技術の特徴 -従来プロセスとの比較(表2)
 コーティング、印刷などのコンバーティングの分野において、EBおよびUV硬化の第一の特徴は、無溶剤塗工が可能であることといえる。EB硬化性樹脂の場合、塗布したコーティング剤がそのまま塗膜として形成される。光重合開始剤を含まないEB樹脂の場合、設計した樹脂の性質がそのまま塗膜の性質に反映される。EBにより完全に重合した塗膜は、光重合開始剤などの低分子成分をほとんど含まないため、無臭あるいは低臭気である。
 EB処理の場合、製品に与える熱の影響が小さいため、薄手のフィルムをベースにした製品でも熱によるしわ、ゆがみ、変形などがほとんどないプロセスを構成できる。EBではライン速度毎分100~400メートルでの高速連続処理が可能であり、これをUV処理で達成しようとすると、UV照射器から発生する熱の影響は無視できないものになる。熱のほとんど発生しないEB処理はプロセスのエネルギー効率にも優れている。非処理物の必要とする部分に、必要なエネルギーを効率よく与えることができる。UVランプの光量は、その性質上、ランプの使用時間とともに少しずつ初期の光量から下がっていくことは避けられないが、EB装置ではビーム電流制御により常に一定の出力を保つことができるので、製品の品質安定性にもプラスとなる。

                    表2  EBと、UV乾燥、熱乾燥の比較

EB硬化

UV硬化

熱乾燥

コーティングの溶剤

不要

不要。光重合開始剤を添加
する必要がある。

必要

臭気

なし/僅か

光重合開始剤

溶剤

硬化時間

瞬時

数秒

数10秒

雰囲気温度

常温+α

40~80℃

80~200℃

On/Off運転

連続可変

制限あり

困難

エネルギー効率

1 (EBを基準として)

3~30

40~200

出力安定性

ビーム出力一定

ランプ寿命に影響される

硬化厚み

数百ミクロンまで。
色、顔料に依存しない

インキ色により制限


 UV硬化の場合、UV光が透過しやすい透明な樹脂であれば、数cmの立体物でも硬化できることが利点である。一方、光を通しにくいあるいはまったく光を通さない樹脂の場合、薄いコーティング層であっても、UVによる硬化が難しい場合がある。たとえば、黒色顔料、光を通さないフィラーが多く含まれるコーティング剤の場合、EBは透過可能な厚みの範囲で、色などに左右されることなく、内部まで十分に硬化することができる。また不透明なフィルム、あるいは薄い金属箔越しにEBを照射して、樹脂を硬化することも可能である。

                   〈本稿に関する問合せ先〉
                     岩崎電気株式会社 製造本部 EB推進室
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