「EB(電子線)照射技術を利用したポリマーの改質」

岩崎電気株式会社光応用事業部EB推進室
武井 太郎(Taro Takei)
ウェブマガジン「ポリマーダイジェスト」、20073

低エネルギーEB装置を利用した工業生産への応用としては、その多くがいわゆるコンバーティングの分野、すなわちプラスチックフィルムや紙の表面に機能性コーティングを施す事例になるが、フィルムを架橋するあるいは重合する技術を用いればプラスチックフィルムそのものを改質することが可能である。以下ではEB装置が利用されている製品分野での事例の説明をする。

1.包装材料へのコーティング
 包装分野では印刷面へのトップコーティング、紙、フィルムへのハードコートなどがEB硬化方式で広く実施されている。北米、およびヨーロッパでは軟包装材料、カートンのトップコーティングが従来のフィルムラミネーションに替わる手法として数多く導入されている。EBトップコーティングはラミネーションと同等の印刷保護性を保ちつつ、包装材料生産プロセスの単純化、より安価な包装材料の生産に役立っている。用途によっては、EBコーティング面に、光沢/マットの選択、表面の摩擦係数の調節などの付加機能を持たせることができるのが特徴である。また、UVコーティングに比べて、無臭あるいは低臭であることも食品関連のパッケージでは大きなメリットになる。

2.建材用化粧紙・フィルム
 日本、および北米では建材に使用する化粧紙、化粧フィルムの製造に用いられている例がある(文献1文献2)。古くは木板、あるいは合板上に、仕上げの上塗りニスとして直接EBコーティングする事例があったが、最近はEBトップコーティングを施した化粧フィルム、あるいは化粧紙を製造して、木板、あるいは合板に貼り付け、家具、建築材料などに使用する例が多いと思われる。EBコーティングを利用した化粧フィルム、化粧紙の利点は、①傷や汚れ、日光などに強く、高耐久性を有すること、②品質安定性に優れていること、③製造工程での省エネルギー化や二酸化炭素排出量が削減できること、④無溶剤塗工が可能なこと、などである。従来の製品よりも、EBコーティングを利用した製品は、製品性能、生産性の面で優れており、今後もこの分野では需要が伸びていくことが予想される。

3.磁気テープ
 磁気テープの記録(磁性)層は、磁性体と添加剤とそれらを分散させたバインダーからなり、バインダーが硬化することにより、磁性体がベースフィルムに固着する。このバインダーにEB硬化性の樹脂が使用されている場合がある。EB硬化性の樹脂を利用することで、磁性層表面の強度を向上することが可能である。またEB硬化は加温工程ではないので、ベースフィルムが熱の影響を受けにくく、熱による変形、ひずみ、しわを生じにくい。一般消費者の目に触れる商品として、国内メーカーから以前EB硬化型のバインダーを使用したフロッピーディスクが発売されていたが、現在はフロッピーディスク、家庭用ビデオテープなど安価な磁気メディアは国外で生産されていると思われる。近年では、コンピューターデータのバックアップ・ストレージ用磁気テープなどの、高密度記録が可能な磁気メディアがEBを利用した技術のターゲットとして見直される可能性もあろう。

4.架橋
 プラスチックフィルムをEBで架橋し、耐熱性、強度を改善するプロセスは古くから行なわれている。ポリエチレンなどは、適度なEB照射を施しただけで架橋が進み、耐熱性が向上し、引っ張り強度が強くなる。一般には架橋助剤を添加することで、小線量で架橋がおこなえる。EBで架橋できる素材としては他にPVCなどが実用化されている。
 ポリエチレンを架橋した後、融点以上で延伸することで、熱収縮性をもったポリエチレンフィルムを作ることができる。これは熱収縮性のシュリンクラップフィルムとして利用されている。ポリエチレンのチューブで同様の加工を行なえば、熱収縮チューブとなる。
 ポリエチレンなどのポリオレフィンに発泡剤を加え、シートに成形し、EB架橋した後に、加熱などの方法でシートを発泡させることで、ポリオレフィンの発泡シートが製作できる。建築資材、包装材料、各種梱包あるいはクッション材料として利用されている。発泡剤で発泡度合いをコントロールできるが、EB架橋の度合いでも発泡度合いや気泡の大きさをコントロールするなどの調節が可能である。

5.グラフト重合
「グラフト(graft)」とは「接木」の意味で、グラフト重合とは、ポリマー(高分子)の枝に別の分子を化学的に接合するプロセスを言う。フィルム、不織布などの高分子基材にEB(あるいはガンマ線などの放射線)を照射してラジカルをつくり、そこに機能を持った他の分子を重合する方法である。グラフト重合を利用し製品化、あるいは開発されたものとして、①ポリエチレンをベースにポリアクリル酸をグラフト重合した電池用セパレータ、②アンモニア、アセトアルデヒドなどの有害物質を吸着する不織布フィルタ、③水中の重金属を吸着する中空糸などがある(文献3)。

6.光学フィルムへの応用
 液晶、プラズマなどのディスプレィの需要の伸びに合わせるように、ディスプレィ用光学フィルムのEBによる製造も期待できる分野である。フィルムへの連続ウェットコーティングをEBで硬化し、機能性、生産性を改善するのが目的である。EBで生産可能な光学フィルムにはさまざまなものが考えられるが、たとえば、反射防止(AR)フィルム、防眩(AG)フィルム、ハードコートフィルム、あるいは反射シート、拡散シートなどがある。
 前述したように、EB装置は、100kV前後、あるいはそれ以下の、超低エネルギー型の装置が主流になりつつある。これにより、光学フィルムのようにコーティング塗膜厚み30μm以下が主流のアプリケーションでは、EBのエネルギーをより効率的に利用することができ、EB装置のランニングコストも下げることができる。コーティング乾燥時にUVキュア、熱乾燥で発生する熱は、ますます薄手になるフィルム部材に変形、ひずみ、寸法の不安定さなどの悪影響を与える可能性があるが、EBならではの常温処理は大きな利点となる。

7.機能性ポリマー膜
 プラスチックフィルムフィルムに機能性を持たせたコーティングを固着させるのとは別の方法として、ポリマー樹脂そのものをEB硬化で機能性フィルムとして形成する方法がある。一般的には、いったんフィルム基材上に、塗液として調製した機能性樹脂をコーティングし、それをEB照射で硬化(重合)させる。その後に、基材フィルムから硬化した膜を剥がし、硬化した膜そのものを機能性のポリマー膜として使用するものである。この方法では、形成した膜の性質を100%生かした新素材を創製することができる。この方法で製造された工業製品の例が文献4に開示されている。

8.EB無溶剤印刷
 ポリマーの改質とは直接関連しないが、印刷分野においても無溶剤であるEBインキの特徴が生かせる。北米、ヨーロッパではオフセット輪転機に組み合わせたドライヤーとしてのEB装置が利用されている。無溶剤オフセットインキを使用して、食品パッケージ、カートンなどへの印刷が一般的に行なわれている。UVインキでしばしば問題となる特有の臭気が、EBインキにはないことも特徴のひとつである。
 フレキソ印刷の分野にでも、ついにEB装置を利用したシステムが登場した。米国サンケミカルの開発したWetFlex(ウェットフレックス、サンケミカルの登録商標)技術により、高精度なフレキソ印刷が可能となった(文献5)。これはCIフレキソ印刷機で、乾燥前に多色インキを重ね塗りし(Wet-on-wet技術)、最後にEB装置で多色インキ層を硬化させるというものである。無溶剤、無臭であるという利点に加えて、印刷ステーション間の硬化ユニットが不要になり、乾燥時に熱が発生しない利点がある。これは薄手ポリエチレンなどでも熱皺の発生を抑制し、安定した印刷が可能になることを意味する。さらにEB硬化型無溶剤のインキ使用により、印刷再現性の高度化が可能になった。
 上記、EBを使ったオフセット印刷、フレキソ印刷とも、まだ日本では広く人気を勝ち得ていないが、今後は最終消費者の環境への関心が高まり、国内のVOC排出規制が厳しくなっていく中で、従来の溶剤を使用した印刷方法から、EBを利用した無溶剤印刷へと徐々に移行していくものと期待できる。

【参考文献】
  1.大日本印刷㈱ホームページ:  ニュースリリース
    <http://www.dnp.co.jp/jis/news/2005/050620_1.html>
  2.大日本印刷㈱ホームページ:  ニュースリリース
    <http://www.dnp.co.jp/jis/news/2006/060605_1.html>
  3.「放射能グラフト重合における高機能化最前線」、コンバーテック(加工技術研究会)
    2005年7月からの連載。
  4.「EB照射による高機能フィルムの直接性膜技術」
   <http://www.rada.or.jp/database/home4/normal/ht-docs/member/synopsis/010282.html>
  5.Sun Chemicalホームページ:
   <http://www.sunchemical.com/wetflex/>

そのほか、ポリマーをEBなどの放射線で加工する技術一般については『ポリマーの放射線加工』幕内恵三著、ポリマーダイジェスト刊(2005年)に詳しい。


                 〈本稿に関する問合せ先〉
                 岩崎電気株式会社 光応用事業部 EB推進室
                 〒361-0021埼玉県行田市富士見町1-20
                 TEL048-554-1316 FAX0348-554-3959
                 URL:http://www.iwasaki.co.jp/

「第8回コンバーティング機材・特殊印刷展(CMM JAPAN& JSP 2007)」について
 岩崎電気㈱は、4月25日から開催される「第8回コンバーティング機材・特殊印刷展(CMM JAPAN& JSP 2007)」に出展する。その中の SPACE WEB という場所で4月27日(金)11:40~の予定で、同社の短いプレゼンテーションを行なう。講演タイトルは「EB(電子線)テクノロジーの最近の動向」。